牧野富太郎人物像 / 牧野富太郎研究所

植物学者・牧野富太郎に関する人物研究、および伝承を目的としています。

牧野富太郎人物像

牧野富太郎  年譜・歌年譜

牧野富太郎の歌年譜について
この年譜は、総合的観点から、『牧野富太郎自叙伝』等に見られる「牧野富太郎博士年譜」と、対照するために作成したもので、ここから見えてくるものを探る事が第一の目的でもある。
この年譜は、製作年のはっきりしたもの、しないもの、特定できるものが混在している。
存在そのものが、まだ確認できていない年号には、「未確認」と記載した。
製作年の詳しくわからないものは、「製作年不詳」と記載した。
多少なりとも手掛かりのあるものは、筆者の独断で製作年を特定し、「製作年特定」と記載した。

製作年の特定が年号をまたがるものは、前年に含めた。
中には製作年が、もっと若い年号に属する歌も発生していることが予想される。
まだまだ隠れた多くの歌(短歌、俳句、川柳、都々逸、里謡等)が、現存するものと思われるが、筆者が発見している歌は、現在これが全てである。これは筆者の情報収集能力の低さから発生している問題である。
『随筆 植物一日一題』、『牧野植物一家言』、『我が思ひ出(遺稿)』に、見られる個々の草木に関する歌(短歌、俳句、川柳)は、年譜から除外した。(それぞれの著書項目を参照のこと)
年号 年齢 略  年  譜 歌  年  譜
文久2年
(1862)
1歳 4月24日、土佐国高岡郡佐川村(現 佐川町)西町組101番屋敷に生まれる。
父佐平、母久壽、幼名成太郎。
 
慶応元年
(1865)
4歳 父、佐平病死。  
慶応3年
(1867)
6歳 母、久壽病死。  
明治元年
(1868)
7歳 祖父、小左衛門病死。この頃名を、富太郎と改名する。  
明治5年
(1872)
11歳 佐川村(現 佐川町)西谷の土居謙護の寺子屋で習字を学ぶ。  
明治6年
(1873)
12歳 佐川村(現 佐川町)目細谷の伊藤徳裕(号は蘭林)の塾で漢学を学ぶ。深尾氏の郷校〝名教館〟に学ぶ。
〔参考〕小澤壽衛生まれる。
 
明治7年
(1874)
13歳 佐川村(現 佐川町)に小学校が開校し入学。  
明治9年
(1876)
15歳 この年、いつとはなしに小学校を自然に退学。  
明治10年
(1877)
16歳 佐川小学校授業生(臨時教員)となる。  
明治12年
(1879)
18歳 佐川小学校授業生退職。高知に出て、弘田正郎の五松学舎に入塾する。
コレラが流行したため、佐川村(現 佐川町)に帰る。
 
明治13年
(1880)
19歳 教員の永沼小一郎を知り、欧米の植物学の影響を受ける。  
明治14年
(1881)
20歳 〔4月〕第二回内国勧業博覧会見物および顕微鏡や書籍購入のため上京する。
博物局田中芳男等を訪ねる。
〔5月〕日光採集〔6月〕箱根、伊吹山等を採集して帰郷する。
 
明治17年
(1884)
23歳 〔4月〕二度目の上京。東京大学理学部植物学教室へ出入りし、矢田部良吉教授松村任三助教授を知る。
日本植物志編纂の大志を抱く。この年から明治26年までの間、東京と郷里佐川村(現 佐川町)との間を度々往復する。また、土佐地方(現 高知県)の植物採集と写生に励む。
 
明治19年
(1886)
25歳 石版印刷技術を習う。
〔参考〕3月、東京大学理学部は、帝国大学理科大学となる。
 
明治20年
(1887)
26歳 2月15日、市川延次郎、染谷徳五郎とともに『植物学雑誌』を創刊する。
〔5月〕祖母浪子病死。
〔7月〕ロシアのマキシモヴィッチへ標本を送り鑑定を依頼する。
 
明治21年
(1888)
27歳 〔11月〕『日本植物志図篇』第一巻第一集を出版し、刊行を始める。  
明治22年
(1889)
28歳 『植物学雑誌』第三巻二十三号に日本で初めて新種「ヤマトグサ」に学名を付ける。
佐川理学会を発足する。
 
明治23年
(1890)
29歳 〔5月〕東京府下小岩村で「ムジナモ」を発見する。
小澤壽衛と結婚する。
矢田部教授より植物学教室の出入りを禁止され、マキシモヴィッチのいるロシア亡命を企てる。
 
明治24年
(1891)
30歳 〔参考〕2月16日、マキシモヴィッチ死去。
ロシア行き夢破れ断念する。駒場農科大学の一室で研究する。
郷里佐川の家業家財整理のため帰郷する。
 
明治26年
(1893)
32歳 〔1月〕長女園子死亡し、上京する。
〔9月〕帝国大学理科大学助手を拝命(月俸15円)する。
 
明治29年
(1896)
35歳 〔10月〕台湾に植物採集の命をうけ出張する。  
明治29年
(1896)
35歳 〔10月〕台湾に植物採集の命をうけ出張する。  
明治30年
(1897)
36歳 〔参考〕6月、京都帝国大学設置に伴い帝国大学は、東京帝国大学となる。  
明治32年
(1899)
38歳 『新撰日本植物図説』刊行を始める。  
明治33年
(1900)
39歳 『大日本植物志』第一巻第一集を発行する。  
明治34年
(1901)
40歳 『日本禾本莎草植物図譜』刊行を始める。
『日本羊歯植物図譜』刊行を始める。
 
明治35年
(1902)
41歳 「ソメイヨシノ」の苗木を郷里佐川に送る。  
明治36年
(1903)
42歳 『日本高山植物図譜』(三好学と共著)出版する。  
明治40年
(1907)
46歳 『増訂草木図説』第一巻を出版する。  
明治41年
(1908)
47歳 『植物図鑑』(北隆館)出版する。  
明治42年
(1909)
48歳 「横浜植物会」創立。指導にあたる。
「ヤッコウソウ」新種発表する。
 
明治44年
(1911)
50歳 「東京植物同好会」創立。会長となる。  
明治45年
(1912)
51歳 〔1月〕東京帝国大学理科大学講師となる。  
大正2年
(1913)
52歳 〔8月〕高知県佐川町へ帰省する。  
大正5年
(1916)
55歳 『植物研究雑誌』を創刊する。
東京朝日新聞に牧野富太郎窮状の記事が出て、池長孟が援助を申し出る。
 
大正7年
(1918)
57歳 〔参考〕「池長植物研究所」の開館式が行われる。  
大正11年
(1922)
61歳 成蹊高等女学校の生徒と日光で植物採集する。
中村春二校長と知り合い支援を受ける。
  • 何を恥かしお多福山は今朝ニ限って顔かく寿
  • 賽銭の多寡の心配なし隠くし殊勝顔する神官の群禰宜の一群
  • 栄養の草を採らんト相模なる秋谷の里に我れハ今日来り
  • 名のしるき栄養草のあしたぐさ生ふる秋谷に一と日暮しつ
  • 民の糧補ひ草を採らんと葉山の濱にけふも来にけり
  • わが学のために登りしつくば山 草木の外は目にも止らず
大正12年
(1923)
62歳 〔参考〕9月1日、関東大震災に遭う。 ★未確認
大正14年
(1925)
64歳 〔9月〕『日本植物図鑑』出版する。
  • 鼻糞と同じ太さの十二円 これが偉勲のしるしなりけり

★製作年特定
大正15年
(1926)
65歳 東京府下北豊島郡大泉町上土支田五五七に居を構える。
  • 虎なんだ吾れハ萬里之藪くぐる
  • 撰り採つた五十の草木五十銭一つの價たつた一銭
  • 百採れば一つの價五厘なり天下これほど廉きものなし
  • 諸物價の高いのに似ず廉賣りの店を平氣で出だす牧野屋
  • 頭腦の中仕入れの草木數知れず幾ら賣つても品切れはせ
昭和2年
(1927)
66歳 〔4月〕理学博士の学位を受ける。
〔12月〕マキシモヴィッチ生誕百年記念式典に出席するため、札幌に行く。
帰途に新種のササを発見する。
  • 此やうにしっぽを出せし上からは かくれんやうもなき他抜(狸)かな
  • 介ふ之今まで守った苦節 捨てにやならない 血之涙
  • 介ふまで之苦節之功も なさけなや 平凡化せる王れ之学問
  • 一生を貧乏で暮す。富太郎福の神様横向ひてゆく
  • 一生を貧乏で暮す富太郎富ん太らうとハとんだ貧乏
  • 一生を貧乏で通寿。富太郎富んだろうとはとんだ貧乏
  • 我れを思う友の心にむくいんと 今こそ受けしふみのしるしを
  • 我れを思ふ友のこゝろにむくいんと今こそうけしふみのしるしを
  • 何の奇も何の興趣も消え失せて 平凡化せるわれの学問
  • 年寄りの冷水の例また一つ 世界に殖えし泰平の御代
  • 年寄りの冷水の例また一つ 世界に殖えし太平の御代
  • とつおいつ受けし祝辞と弔辞の方へ 何と答えてよいのやら
  • 受けし祝辞と弔辞の方へ 何と答へてよいのやら
  • 今日の今まで通した意地も 捨てにゃならない血の涙
  • けふの今まで通した意地も捨てにやならない血の涙
  • 早く別れてあの世に在ます 父母におわびのよいみやげ
  • 鼻糞と同じ太さの十二円これが偉勲のしるしなりけり
  • たをやめのそばよりはよいここのそば
  • たをやめのそばよりはよいと皆んながほめつつくらふここのやぶそば
  • ハマナスの赤果を送りやりし人に
  • ルビや珊瑚のその玉よりも私しゃこのよな玉がよい
  • カキクケコキソとクソとは縁があり
  • 降りて見て上りし遠さ知られけり
  • 受けし扇を使うて見れば日本国中の風が吹
  • 三千世界に古のもの阿りて人の苦労が断えやせぬ
  • 死んだ後ちでも萎へ左るやうと祈る介ふ乃わたし達
  • 油断して猿ニ眼がねを取られタリ。畜生故ニ怒られもせ須。
昭和3年
(1928)
67歳 〔2月〕壽衛死亡、享年五十五歳。
新種のササに「スエコザサ」と命名する。
  • 眼もよ以歯もよい足腰達者うんとはたらこ古乃御代に
  • 目もよい歯もよい足腰達者うんと働らこ此御代に
  • 眼もよい歯もよいざふ煮もたべたうんとはたらここの御代に
  • 家守りし妻の恵みやわが学び
  • 世の中にあらん限りやスエコ笹
  • 長むしの長きか如く長生きをしてみむものと願ふ巳の年
  • わがよはひ六十七はわかざかり龍にはまけじかけくらべせん
昭和4年
(1929)
68歳  
  • 早池峯ハ秋はや更けて遅く咲く薊之花も盛り過き介り
  • 亡き妻之在りにし去年之旅に以で淋しく帰る我可家之門
昭和5年
(1930)
69歳  
  • 午の年馬にも優る突進を心に誓ふ元日の朝
  • 馬のごと火焰立つべき勢を吾れも見せんと勇む元日
  • 我が齢六十九とはなりつれどなど負けざらん馬の奔するに
  • 我が齢六十九とはなりつれどなど勝たざらん馬の奔するに
  • 元日の初日拜めば氣も亦かはるそれが嬉しい春の今朝
  • 三里塚千里もつづく桜かな
  • 恐れ山とは誰が言い初めし 来ればなつかしその景色
昭和6年
(1931)
70歳 〔4月〕自動車事故に遭い負傷し入院する。
  • 七十の我が身に嬉し未歳 未だ未だ未だと未来ある春
  • 七十は尚ほ人間の花盛り 結ぶ美き果を是れよりぞ待つ
  • 性の力の尽きたる人は呼吸をしている死んだ人
  • 精力のやりばに古まる独り者亡き妻恋ひし介ふ乃わ可身ハ
  • 峡中を二日がヽりで観尽せり
  • 草を褥に木の根を枕、花と恋して五十年
    ★製作年特定(上村登著『牧野富太郎伝』を参考にした)
  • 虎なんだおれは万里の藪くぐる
昭和7年
(1932)
71歳 〔10月〕『原色野外植物図譜』を刊行する。
  • 早や 〲 とエテ公けふはお芽出たいわしも土佐ザル今年しゃよろしく
  • 七十のよわひは去る(申)に任せおきて復た踏みはじむ初の一と年
  • 今年もエテに帆を揚げ草の海に漕ぎ出でんとて用意おさ 〱
  • 青島やわれ来て見れば茂りたるびろうの葉そよぎ海風吹
  • 景色見よとて箱根にゃこいで夜まで忙しい筆仕事
昭和8年
(1933)
72歳  
  • 今年は七十二歳酉(取り)の春 曉鶏にはまけぬ聲揚て見ん
  • 衣にすりし昔の里か燕子花
  • 衣に摺りし昔の里かかきつばた
  • 山里の 一畝の畑や 麦の秋
  • 仙境の三段峡に 異艸採る
  • 朝な夕なに草木を友にすれば淋しいひまもない
  • 朝な夕なに草木を友にすればさびしいひまもない
  • 朝夕に草木を吾の友とせば心淋しき折ふしもなし
  • 草の学問さらりと止めて歌で此世を送りたい  ★製作年特定
昭和9年
(1934)
73歳 〔8月〕高知県佐川町へ帰省する。
『牧野植物学全集』刊行を始める。
  • わが生れ戌どしなれどワン 〱 と 聲にぎやかに祝ふ元日
  • 何事も成ってはゐない吾れなれど とりし年のみとりえなりけり
  • いざさらば吾れをまとめむ年は來ぬ 駑馬に鞭うちいそしまむかな
  • 貧乏の吾れは我可身を慰みて手に抱きしめし金銀の茄子
  • 貧乏の吾れは我可身を慰みて手にかゝへこむ金銀の茄子
昭和10年
(1935)
74歳 〔6月〕『趣味の植物採集』を出版する。
  • 假名ハちがへど 亥の一ばんに なつて見たいの 年迎へ
  • なるかならぬハそりや運次第 は天まで行かねば氣がすまぬ
  • 今宵一夜者名残の床二行きし立山夢に見る
  • 今宵一夜は名残の床よ行きし立山夢に見る
  • そゝり立つ其の名も高起立山爾介ふそ登りし吾連の嬉しさ
  • そそり立つその名も高き立山にきょうぞ登りし吾の嬉しき
  • 宮城野乃萩の原と種麗はしく咲起みたれ多る立山の秋
  • みやぎ野の萩もと種うるはしく咲き乱れたる秋の立山
  • 思ひ思はれ三とせの月日待って嬉しいにわの首尾
  • つもりつもりし思いは晴れて朝日かがやくけさの雪
  • 会ふたのちには尚更つのるいとしかはいの恋ひ情
  • 千年栄ゆる松葉のやうに友白髪まで二人づれ
  • 神も恵みを垂れたまいしか、立山頂上日本晴
  • 黒部はいれば千尋の谷よ橋は飛鳥の背を見る
  • 深い谷底そこより望ぞみや峰の間ひは天の帯
昭和11年
(1936)
75歳 〔4月〕高知県佐川町へ帰省する。
花見を楽しみ、高知会館で歓迎パーティーに出席する。
『趣味の植物採集』を出版する。
〔7月〕『随筆草木志』を出版する。
  • あんた芽出たい わたしもさうよ ともに迎へる御代の春
  • あちの本こちの草の根 齧らんと 齒を研ぎすます ひのえ子の年
  • 歌ひはやせや佐川の桜 町は一面花の雲
  • 匂う萬朶桜の佐川 土佐で名高い花名所
  • しだの字は歯ひの朶(もと木)と書くと聞く家は末廣壽は千歳
  • 山の上下近くであれど百里へだった心地する
  • 思ふ心は通ひはすれど越せない人目の関がある
  • 草を褥に木の根を枕 花を恋して五十年
  • 朝な夕な爾草木を友に すれバ淋しいひまもない
  • 朝夕爾草木を吾れ乃友とせ者 こゝろ淋しき折りふしも奈し
昭和12年
(1937)
76歳 〔1月〕朝日文化賞を受ける。
  • 七十ちに六とせ重ねし吾れなれと老ひの古ヽろハつゆも萌さ須
  • 山や野や林浜辺とへ免くりて我可恋ふ草木採るそ嬉しき
  • 牛のことおの可歩みは遅介れと我可業遂けてなと止るへき
  • 七十ぢに六とせ重ねし吾れなれど老ひのこゝろハつゆも萌さず
  • 山や野や林濱辺とへ免ぐりて我可恋ふ草木採るぞ嬉しき
  • いく先きをじやまするおどろあるなれバ踏みにじりてもあへて進まむ
  • 牛のごとおのが歩みは遅介れど我可業遂げてなど止る遍き
  • 沈む木の葉も流れの工合浮かぶその瀬もないじゃない
  • 沈む木の葉も流れの具合浮かぶその瀬もないじゃない
  • 十カ所を蜂にさされて腫れあがり痛き記念を残す三峡
  • 雪に埋れし山家の中も恋の二人は春心地
  • 久しぶりよと手をとるはずみ覚め恨めし春の夢
  • なんと憎らし人目の関が近い二人を遠くする
  • 朝夕に草木を吾れ乃友とせハ こゝろ淋しき折ふしもなし
  • 薬もて補ふことをつゆた爾も 吾れハ思はす介ふ乃健やか
昭和13年
(1938)
77歳 〔5月〕喜寿祝賀会が催される。
『趣味の草木志』を発行する。
〔12月〕高知県佐川町へ帰省する。
  • 雨煙ふる六甲山に登り来天 六甲藤を採るそ嬉しき
  • 朝夕に 草木を 吾れの友とせ者 こヽろ淋しき 折りふしもな
昭和14年
(1939)
78歳 〔5月〕東京帝国大学理学部講師を辞任する。
  • 蜃気楼人騒がせしまぼろしも 消えて痕なしもとの海山
  • 薬もて補うことをつゆだにもわれは思わずけふの健やか
  • 八十百のその坂道に咲き出づる花を手折りて尚進まなむ
  • 長く通した我儘気儘最早や年貢の納め時
  • ながく住みしかびの古屋をあとにして気の清む野辺にわれは呼吸せむ
  • 朝な夕なに草木を友にすれば淋しいひまもない
  • 長く住み天厭きし古屋をあ登爾見て 氣乃清む野邊に吾連ハ呼吸せむ
昭和16年
(1941)
80歳 〔5月〕満州のサクラ調査に出帆する。
〔8月〕池長孟より標本が返還される。
〔11月〕安達潮花より標本館の寄贈を受ける。
〔参考〕12月8日、太平洋戦争が勃発する。
  • 吉林の桜を恋いて旅路かな
  • 老爺嶺今日ぞ桜の見納めと 涙に曇るわが思いかな
  • 吾れも亦残魚を友とし暮さなど萬の書を味ひつるも
  • 風静か 波も静か 舩の帖へ吉林の桜検べや海渡る
  • 氣爾なつた 我可子もどりし 歓喜哉
  • 草を褥に木之根を枕 花と恋して五十年
  • 気になった吾子戻りし歓喜かな
昭和17年
(1942)
81歳  
  • 衣に摺りし昔の里かかきつばた
  • ハンケチに摺つて見せりかきつばた
  • 白シャツに摺り付けて見るかきつばた
  • この里に業平來れば此處も歌
  • 見劣りのしぬる光琳屏風かな
  • 見るほどに何んとなつかしかきつばた
  • 去ぬは憂し散るを見果てむかきつばた
昭和18年
(1943)
82歳 〔8月〕『植物記』を発行する。
  • 赤黄紫さまざま咲いて どれも可愛い恋の主
  • 年をとっても浮気は止まね 恋し草木のある限り
  • 恋の草木を両手に持ちて 劣り優りのないながめ
昭和19年
(1944)
83歳 〔4月〕『続植物記』を発行する。
  • 何んと憎らし人目の関が近い二人を遠くする
  • なんと憎らし人目の関が近い二人を遠くする
昭和20年
(1945)
84歳 〔5月〕山梨県北巨摩郡穂坂村に疎開する。
〔参考〕8月15日、太平洋戦争の終戦を迎える。
  • あの雲は東ひがしとどこへ行く
  • 草を褥に木乃根を枕 花と恋して五十年
  • 草を褥に 木の根を枕 花と恋して 五十年
  • 乏しさの折に恵み之青葉哉
昭和21年
(1946)
85歳 〔5月〕『牧野植物混混録』第一号を刊行する。
  • 何時までも生きて仕事にいそしまむまた生れ来ぬ此世なりせば
  • 何よりも貴とき宝持つ身には富も誉れも願はざりけり
  • 沈む木乃葉も流れの具合 浮むその瀬之奈いじやない
  • 百歳に尚道遠く雲霞
昭和22年
(1947)
86歳 〔6月〕『牧野植物随筆』を出版する。
  • 剃刀の我もたまらぬ刃の冴爾 触れりや傷なき人はない
  • 我が姿たとえ翁と見ゆるとも心はいつも花の真盛り
  • いつまでも生きて仕事にいそしまむ、また生まれ来ぬこの世なりせば
  • 何よりも貴とき宝持つ身には、富も誉れも願わざりけり
  • 沈むその葉も 流れのぐはひ 浮む其瀬乃 奈いじやない
昭和23年
(1948)
87歳 〔7月〕『趣味の植物志』を出版する。
〔10月〕皇居に参内し、天皇陛下に植物学を御進講する。
『続牧野植物随筆』を出版する。
  • 陛下賜優
昭和24年
(1979)
88歳 〔6月〕大腸カタルで危篤となるが、奇跡的に回復する。
  • 我可齢八十八ハ花ざかり結ぶ佳き果をこれよりぞ待つ
  • 百才に なお道遠く 雲かすみ
  • 朝夕に草木を吾れの友とせ者 こゝろ淋しき折りふしもなし
昭和25年
(1950)
89歳 〔5月〕『図説普通植物検索表』を出版する。
〔10月〕日本学士院会員となる。
  • 虎くぐる千里を吾は一萬里
  • 虎くヾる千里を吾は一萬里
  • 虎ノでる千里を吾れハ一万里
  • 奥の土居桜に浮かれ人出かな
  • 青柳の橋を渡れば五台山
  • 夢なれやお土居に残る屋敷跡
  • 沈む木の葉も流れの具合 浮ぶその瀬之ないじゃない
  • 沈む木の葉も流れ乃具合 浮むその瀬之奈いじゃ奈い

  • [牧野発武井近三郎宛のハガキ]
  • 翠なす松の前にと浮き出でし一むれ咲きし山ざくら花
  • きのふまで咲きしさくらの名残とて風に散り布く花びらの雨
  • きのふまで花のさくらもけふは早や夏をきざしの葉とハなりけり
  • 昔よりその果なさを歌はれしさくらの花も夢と散りぬる
  • さくら花その花びらの地に散りて泥にまみれし行く末あはれ
  • さはがれしさくらの花も葉となれバかへり見に来る人かげもなし
  • あれほどに愛でしさくらも葉となりて毛虫たかれバ人に忌まるゝ
  • 数多きさくらの中の山ざくらこれぞさくらのさくらなるらむ
昭和26年
(1951)
90歳 〔1月〕文部省に「牧野博士標本保存委員会」が設置される。
〔6月〕標本整理が始まる。
〔7月〕第一回文化功労者となる。
  • ぴょんぴょんと とぶ兎さん 九十のお爺 まあまてと いきせき走る
  • ぴょんぴょんととぶ兎さんまあまてよ 九十のお爺いきせき走る
  • ピョンピョンと登婦兎さんやれま天と 九十のお爺いきせき走る
  • 山桜 ほかの左くらは 臣下かな
  • 富士の山 遠く望めバ姿哉近寄り見れバ たゞの土塊
  • 草も木もあらむ限りや王可命

  • [性慾禮讃の歌]
  • 子寶と呼ぶは宜べなり人間の、寶はこれに超すものぞなき
  • 强壯な子供を多く儲くるは、是れぞ人たる第一の道
  • 人間の勲一等は丈夫なる、子供澤山ひり出した奴
  • 子を産むは系統を繼ぐ手段なり、斯くて種屬は絕ゆる事なし
  • 我が地球滅する限み我が子孫、殖やし殘すが人の天職
  • 吾れ人の世に生れ來しその由來は、子孫を遺す中繼ぎぞかし
  • 生殖の力を保護れ皆な人よ、死ぬる際まで尚ほ續くやう
  • 生殖の力あるうち人の花、これなきものは石佛なり
  • 蟬を見よ生殖すめば潔ぎよく、直ぐ死ぬ事は何にを意味する
  • 草も人も共に生物かはりなし、草は種子生り人は子を生む
  • お道具はただの飾りのものならず、愉快に使ひ使命果せよ
  • 獨身は萬の扉の其中の、天理に背むく第一の扉
  • 雄雌の番ひあるのを見つむれば、獨身論は立つ理由もなし
  • 道徳も又法律も人間の、生きる途なるただの約束
  • 人の社會共栄共存願ふゆえ、法律道徳始めて必要
  • 優者勝ち劣者敗るは天理なれど、そを調節る法と道徳
  • 我れ勝ちに勝手なまねをする氣なら、法律道徳また何かせん
  • 人間の問題中の第一は、性問題に如くものはなし
  • 人の元氣は何處から泉づむ、生殖力なき人見て覺れ
  • 性の力を究めて見れば、人の命の泉なり
昭和27年
(1952)
91歳 〔参考〕佐川町の牧野富太郎生家跡に「生誕の地」の記念碑が建つ。
  • わが姿たとへ翁と見ゆるとも心はいつも花の真盛り
  • ぢぢいよりばばあと見ゆる我が顔は九十一年年ふりし顔
  • 何時までも生きて仕事にいそしまむまたも出て来ぬ此世なりせば
  • 何よりも貴とき宝もつ身には富も誉れも願はざりけり
  • 白浜ゆ海の彼方はいづくかも果てし知られぬ波のうね 〱
  • 白浜の海のかなたハいずくかも果ても志られぬ波乃うね〱
  • あはび貝虹の地色にさそわれて貝を集むる氣にはなりけり
  • 四つの顔並べて見れば立ち優る顔はいづれぞ四つのその顔
  • 百まであと九年あり道とおし
  • 莫逆の友の集ひや年忘れ
  • 草もあり 木もあれバこそ 吾れもあり
  • 携へて草木を採りし筑紫地乃 昔思へバその人なつかし
  • 霧島や阿蘇之山路は樂しか里
昭和28年
(1953)
92歳 〔3月〕『随筆植物一日一題』を発行する。
〔10月〕東京都名誉都民となる。
〔参考〕10月、『植物界の至宝 牧野富太郎』(山本和夫)が出版される。
  • 烏兎匆々九十二年ハ夢と過ぐ
  • 九年経ば百にとゞかむ歳となり
  • 百年に追付く路は尚遥か
  • 美の世界花は紅葉は緑
  • 生き甲斐のありし此世に草木あり
  • 毎日を草木で送る忙しさ
  • 世の中は馬鹿と利口のこぜり合ひ
  • 酒を呑むばちが中って中風かな
  • 酒のためあと半生を棒にふり
  • なつかしや楊梅を売る町の声
  • 学問は底の知れざる技芸なり
  • 憂鬱は花を忘れし病気なり
  • わが庭はラボラトリーの名に恥じず
  • 綿密に見れば見る程新事実
  • 新事実積り積りてわが知識
  • 何よりも貴き宝持つ身には、富も誉れも願わざりけり
  • 草を褥に木の根を枕 花と恋して九十年
  • 朝な夕な爾 草木を友に すれバ淋しい ひまもな以
昭和29年
(1954)
93歳 〔12月〕風邪をこじらせ肺炎となり床につく。
  • 結網は何んな草でも直ぐ判かり
  • 結網は草木を診るの国手なり
  • 何時までも、生きて仕事にいそしまんまた生まれ来ぬ此の世なりせば
  • 百歳に尚路遠し雲霞
  • 百歳に路尚ほ遠し雲霞
  • 百歳に尚路遠く雲霞
  • 百歳之途尚ほ遠く雲霞
  • 色はいろはの始めなり
  • 世の中に花ありてこそ吾れも在り
  • 雨のごと蟬時雨降る聖人碑
  • 春風秋雨淋しく建てる石碑かな
  • 世が移り当時を偲ぶ石碑かな
  • 碑を見れば在りし昔偲ばれる
  • 先生の御声の為なる切塞
  • 何時迄も見送りの人立ち去らず
  • 久兵衛の坂は懐かし蟬の声
  • 春蟬の頻りに鳴きし切塞、久兵衛坂は今も懐かし
  • 何んと無く嬉しく覚ぼゆ昨日今日
  • 女より便りも無くて淋しかり
  • 女より何んの便りも梨つぶて
  • 若き日を思へば感慨無量なり
  • 若き日と言わねばならぬ年と成り
  • 若き日は希望に満ちて居たりけり
  • 若い日は再び来ずと歎き居り
  • 学足らず何時も落伍と成にけり
  • 畏こまり畏こまりして謹聴し
  • 葉の上の蛙飛び込む水の音
  • 蓮の花、音は為無くに静かなり
  • 人生の浮沈是れ天然、昨日の教師も今は声えず
  • 昨日の事想へば夢の夢で在る
  • 佐川には誇るに足りし英学の在り
  • 寺小屋の跡を小学校が襲ぎ
  • 親しかりし、友も仕舞にや、遠く成り
  • 親しかりし、友も散り 〲 世の習ひ
  • 秋の日や軒端に柿のつるし在り
  • 冬近かく柿に大根掛けて在り
  • 麦畑け一面麦の繁りけり
  • 見渡せば畑打つ農夫二三人
  • 秋の山何処も彼処も紅葉なり
  • 一面の大根畑け青味居り
  • キビ殻の立つて音する畑かな
  • 何処見ても、栗、キビの穂の採つて在り
  • 稲の穂の望み豊たけく垂れにけり
  • 紅紫黄白の花は人の為めに發らく乎
  • 神庭に 杉の大木 茂りけり
  • 奥の土居 櫻に浮かれ 人出か奈
  • 森々と杉の木立ちの限りなく神代ながらの横倉の山
  • 今日もまた横倉山に異草採り学びの料に供へんとぞ思ふ
  • 今日もまた横倉山に異草採り学びの料に供へんとぞ思ふ
  • 景色なす五台山には樹が茂げり
  • 朝夕に草木を吾れの友とせバ 古ヽろ淋しき折りふしも奈し
  • 春なれや 九十三歳 春なれや
  • 花あれバこそ 吾れも在り
  • 花あれ者こそ 吾れも在り

  • [牧野発武井近三郎宛のハガキ]
  • 吸江の景色組み立つ五台山
  • 青柳橋虹の様なる姿かな 青柳橋ちっと穢ないナー
  • 何時かまた行って登らん五台山
  • 高知城これは高知の至寶なり
  • 高知城あって高知の町であり
  • 高知城咸臨閣に鳶が舞ひ
  • 白壁の咸臨閣の威容かな
  • 遠くより早や眼に這いる高知城
  • 仙台屋櫻も今は花盛かり
  • 蛇の目傘、張ってニロギを釣りに出る
  • お馬さん、かんざし買って上げようか
  • 海南の土佐で自慢の長尾雞
  • ウー 〱 と、一声うなりゃ人恐それ
  • 得月の藝子も今は春化粧
  • 桂濱少し狭いが遺憾なり
  • 高知城高知の町の宝なり
  • 咸臨閣天に聳えて高く見え
  • 青柳橋虹の如くに長く見え
  • 龍馬像土佐の人だと自慢をし
  • 我が庭の草木を何時も楽しがり
  • 我が庭の草木の中に吾れは生き
  • 日日に庭の草花看る楽のし
  • 庭廣く日々、草を眺め居り
  • 庭廣く百花次ぎから次ぎと咲き
  • 新緑の四方の景色の得も言へず
  • 蛇の目傘張ってニロギを釣りに出る
  • 石炭屋附近の山を化粧させ
  • 青柳の橋は宛かも虹の様
  • サバ鮎は高知名物他には無い
  • 孕みの山、山ざくら咲き風致好き
  • 柴天に頼まれ土佐に木の葉採る
  • 土佐よりの木の葉はよいと天狗言ひ
  • 鞍馬天狗樹の葉の来るを待ちかねる
昭和30年
(1955)
94歳 〔7月〕「東京植物同好会」を「牧野植物同好会」として再開する。
〔参考〕4月、『牧野富太郎』(中村浩)が出版される。
11月、『牧野富太郎傳』(上村登)が出版される。
  • 浮きし心のきのふの晴れもけふは曇りて沈みがち
  • 静かなる庭に聞こゆるホウホケキョウ
  • 鶯は来鳴かず梅の淋し顔
  • ちゃちゃ来ず ホウホケキョウも来ず庭淋し
  • 麗らかな春の日に咲く桜花
  • 春の日の花は桜に限りけり、梅、桃、李、咲きおとりする
  • 山は見渡す限り桜にて、霞か花か花か霞か
  • 桜花散りての後ちの淋しさは蕾の前の淋しさに勝る
  • 遠山の桜其処此処雲と見ん
  • 花曇り都の空は桜にて
  • 紅葉(もみじば)は樹々を黄色と紅で染め
  • 柿紅葉散り敷く庭には錦なり
  • 柿紅葉庭に錦を散り敷けり
  • 花水木花にも優る葉の紅
  • 菊の花幾色の枝を瓶に挿し
  • キクラゲは雨に打たれて動き居り
  • ヘラノキは天に向かって壁を塗り
  • キノコ傘雨も降らぬに拡ろげおり
  • 九十三の歳に及んで臭残り
  • 日々に草木を検し楽しがり
  • 草と木は天の恵みと額づけり
  • 草と木と此世に在りて吾も在り
  • 草と木は吾の愛するといちなり
  • 草と木と在りてぞ吾は長生きす
  • 長命の吾れの親友草木在り
  • 草木こそ吾が親友と満足し
  • 草木無けりゃ吾れも無からん此の世界
  • 女より好きは私の木と草と
  • もつれ来る黄蝶白蝶薬師草
  • 君をまつのり今宵の夜半に片思ひさしゃ罪な人
  • 孔の無いあはびさぞや片思ひ、小野の小町は憐れなり
  • 紀の国の木の葉も容易に手に這いり
  • 此頃は木の葉天狗の友と為り
  • 暖国で無いと冬の葉手に入らず
  • 御好意の木の葉を眺め悦に入り
  • 妾宅へ行くも還へるも立ち寄れり
  • 立ち寄って中でままごとして遊び
  • 乙姫のあそこは肴の臭いが爲
  • 乙姫へ奉つたる小傘
  • ヌルデの葉庭に明るく紅葉する
  • ヤマウルシ山派手やかに紅葉する
  • ヤマハゼは山其処此処に紅葉する
  • 雨帯びてドウダンの葉の紅さへる
  • 日を経るがまゝにドウダン紅を増し
  • きのうよりけふはドウダン紅くなり
  • ドウダンの日増に赤し秋の末
  • 松茸の季節終れば紅葉待ち
  • 花の露蝶々来れ馳走せむ
  • 薬師草白蝶去れば黄蝶来る
  • 白い蝶黄色い蝶や薬師草
  • 紅葉せるドウダンありて庭明かし
  • 雨に濡れ山のドウダン色赤し
  • 薬師草草花も可愛ゆし蝶までも
  • さっと来る風に孟宗葉の戦ぎ
  • 竹の葉もじっと動かぬ暑さかな
  • 雷は鳴れど夕立遂に来ず
  • 雷も暑さに鳴りをしづめけり
  • 外の木を待つまでも無く柿紅葉
  • 紫茉莉の花優しくも庭に咲き
  • 楽しさや押葉を庭の木で作り
  • 庭淋びて木芙蓉の花の終りかな
  • 我が庭に咲きしフヨウの花見れば老ひの心も若やぎにけり
  • 柿紅葉そのままで置け庭の面
  • 柿紅葉夕日に映へて華やかさ
  • 櫨紅葉、筑紫の里は綾錦
  • 我が庭の、スルデの紅葉看て飽かず
  • 紅葉せる、ヌルデの葉をば書に挟む
  • ヌルデの葉、庭に明るく紅葉する
  • ヤマウルシ、山派手やかに紅葉する
  • ヤマハゼは、木の間に紅葉する
  • ウルシの木、黄ばんだ紅葉冴えもせず
  • ドウダンの紅葉は雨で色冴える
  • マルバノキ、谷間明るく紅葉する
  • 梧桐は、どんなもみぢぞ黄いに染む
  • 栂の尾、槙の尾、見れど尽きざる紅葉かな
  • 御殿山、紅葉の名所人忘れ
  • 山櫻旭日に匂ひ咲き爾け
  • 櫻花朝日に匂ひ咲き爾介り
昭和31年
(1956)
95歳 〔6月〕病状が悪化する。
〔12月〕佐川町名誉町民となる。
『植物学九十年』、『草木とともに』、『牧野富太郎自叙伝』を発行する。
  • 時節は争へぬものこほろぎの鳴く
  • 肌涼しコホロギ終夜鳴き通し
  • こほろぎは暁きまでも鳴き明かし
  • こほろぎは、つかれもしなく終夜鳴き
  • 自分にも生きて居るとは思えども、自分分らず浮浮し
  • 草を褥に木之根を枕 花と恋して九十年
昭和32年
(1957)
96歳 1月18日、死去する。
没後に文化勲章が授与(追贈)される。
 
     
  • 製作年不詳
  • 三年とばない鳴かない鳥も とんで鳴き出しゃ呼ぶ嵐
  • 梅を見て殊更ひねる下手俳句
  • 學問は底の知れざる技藝也
  • 花あれは こそ 吾れも在り
  • 花あれバこそ吾れも在り
  • 山桜の押花を見て日の本のほかには無いぞ山桜
  • あはび貝虹の地色にさそはれて貝を集むる氣爾は奈り介り
  • 血しほ染免なす 深山乃紅葉 あれ可わたしの 胸之色
  • 誰に見しよと天許を飾る奥の深山乃蔦紅葉
  • 春ハ白雲桃いろ霞佐川桜乃花どころ
  • 水際に蓼の垂り穂や秋の晴れ
  • 秋深けて冴え残りけり蓼の花
  • 白浜の海のかなたハいずくかも 果ても志られぬ波乃うね 〱
  • ミソとクソと者 名前が似てる 名前者かりか 姿まで
  • キノコヘノコは名前可似てる 名前はかりか形まで
  • このフロラ水揚ぜ済まずしおれ勝ち
  • マキノアの苔の精虫巨大なり
  • 撃ち落ちし米鬼飛行士ペニス立て
  • 雪が生んだよ、越路の雪が、雪の肌のお雪さん
  • 君のこころを、つくしと思や、はかまとるのは、苦にならぬ
  • 長命を しようと想えば 枸杞を食へ
  • 眼もよい歯もよい足腰達者うんと働こ此御代に
  • 一生を貧乏で暮らす富太郎福の神様横向いていく
  • 恋乃艸木を両手に持ち天 劣り優りのな以眺免
  • 死ぬ時死なぬは男乃恥と見やれさかりと散るもみぢ
  • 草を褥爾木之根を枕 花と恋して九十年
  • 朝夕に草木を吾れ乃友とせ者 こゝろ淋しき折りふしも奈し

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